認知症のある利用者では、「部屋に知らない人がいる」「子どもが立っている」「床に虫がいる」など、周囲には見えていない人や物が見えると訴えることがあります。本人にとっては実際に見えているように感じられるため、「そんなものはいない」と強く否定すると、不安や不信感が強くなる場合があります。
ここでは、認知症により人影や動物などが見えると訴え、夕方から夜間に不安が強くなる利用者を例に、本人の安心と安全につなげる第1表・第2表のケアプラン文例を紹介します。
この記事が参考になるケース
- 「知らない人がいる」と訴えることがある
- 実際にはいない人や動物が見えると話す
- 夕方や夜間に訴えが増える
- 見えているものを怖がることがある
- 追い払おうとして立ち上がり、転倒が心配される
- 家族が「誰もいない」と説明しても納得しない
- 家族が対応方法に困っている
担当ケースに近い部分を選び、何が見えるのか、本人が恐怖を感じているのか、出現する時間帯、環境、体調などに合わせて調整してください。
※幻視や混乱が急に出現・増悪した場合には、認知症による症状だけと決めつけず、体調不良、睡眠、脱水、服薬、視力、環境変化等も含めて確認し、必要に応じて医療職へ相談してください。
利用者像の例
- 81歳・女性・要介護2
- 長男夫婦と同居
- 認知症あり
- 屋内歩行、食事、排泄は概ね自立
- 夕方になると「廊下に子どもがいる」と話すことがある
- カーテンや衣類の影を人と見間違えることがある
- 本人は見えている人を怖がることもある
- 家族が「誰もいない」と強く否定すると不安が強くなる
- 照明を明るくし、別の部屋へ移動すると落ち着くことがある
- 好きな音楽や家族との会話で気持ちが切り替わることがある
- 夜間に見えているものを確認しようとして立ち上がることがあり、転倒が心配される
- 通所介護週3回利用
本人・家族の意向の文例
本人の意向
おすすめ文例|不安が強い場合
人がいるように見えると怖くなることがある。そんなときは一人にせず、安心できるようにそばにいてほしい。
別の表現①|否定されることがつらい場合
自分には見えているのに「何もいない」と言われると不安になる。まず話を聞いてほしい。
別の表現②|落ち着いて暮らしたい場合
家で怖い思いをせず、家族と安心して落ち着いて暮らしたい。
家族の意向
おすすめ文例|対応方法を知りたい場合
本人に見えているものを否定しても不安が強くなるため、どのように声をかければ安心できるのか知りたい。
別の表現|転倒を心配している場合
見えている人を追いかけたり確認しようとして急に立ち上がることがあり、転ばないか心配している。本人を安心させながら安全に過ごしてほしい。
第1表の文例
利用者及び家族の生活に対する意向を踏まえた課題分析の結果
おすすめ文例
本人は基本的な生活動作を概ね自分で行い、家族と住み慣れた自宅で生活を続けたいと希望している。一方、夕方から夜間を中心に「廊下に子どもがいる」「人が立っている」など、周囲には確認できない人影等が見えると訴えることがある。本人はその存在を実際に見ているように感じており、家族から強く否定されると不安や混乱が強くなる場面がみられる。また、見えているものを確認しようとして急に立ち上がることがあり、転倒にも注意が必要である。一方、照明を調整する、別の場所へ移動する、家族がそばで穏やかに話すことで落ち着くことがある。本人が感じている不安を否定せず受け止め、幻視がみられる時間帯や環境、体調等を確認しながら、安心して安全に過ごせる生活環境を整える必要がある。
別の表現|環境面を重視する場合
本人は夕方以降、カーテンや衣類の影などを人や動物として認識し、不安を訴えることがある。暗い場所や物の影が多い環境では訴えが増える一方、照明を明るくし環境を整えることで安心できる場合がある。本人の訴えをすぐに訂正するのではなく、本人が感じている恐怖や不安を受け止めながら、見間違いにつながりやすい環境を整え、転倒等の事故を防ぎながら在宅生活を継続できるよう支援する必要がある。
総合的な援助の方針
おすすめ文例
本人が人影等を見たと訴えた際には、すぐに否定や訂正を行わず、不安や恐怖の気持ちを受け止める。幻視がみられる時間帯、場所、照明、睡眠、体調等を確認し、本人が安心しやすい環境を整える。見えているものを確認しようとして立ち上がる場合には、転倒につながらないようそばで安全を確保し、会話や好きな活動等を活用して気持ちを切り替えられるよう支援する。症状の出現状況や変化を家族・介護サービス等で共有し、急な増悪や体調変化がみられた場合には必要に応じて医療職へ相談する。
別の表現|短めにまとめたい場合
本人に見えているものを強く否定せず、不安な気持ちを受け止めながら安心できる環境を整える。幻視がみられる時間帯や状況を把握し、転倒等の安全面に配慮する。症状や体調の変化は関係者で共有し、必要時には医療職へ相談する。
第2表の文例
幻視がある場合も、「見えないものを見ないようにすること」を生活目標にするのではなく、本人が不安や恐怖を感じたときに安心でき、安全に生活できることを目標として考えます。
課題① 怖いものが見えたときも安心して過ごしたい
生活全般の解決すべき課題(ニーズ)
人や物が見えて怖くなったときに、一人で不安を抱えず安心して過ごしたい。
ニーズの別表現|気持ちの理解を重視する場合
自分が見えているものをすぐに否定されず、怖い気持ちを分かってもらいたい。
長期目標
幻視がみられた際にも、不安を受け止めてもらい、安心できる関わりの中で穏やかに生活できる。
短期目標
不安を感じた際に家族や支援者へ伝え、穏やかな声かけを受けることで安心することができる。
サービス内容
幻視の訴えがあった際には「いない」と強く否定せず、「怖かったですね」「心配ですね」など本人の感情を受け止める。本人が安心できる場所へ誘導し、落ち着けるよう支援する。
課題② 見え方に惑わされず安全に家の中を移動したい
生活全般の解決すべき課題(ニーズ)
人や物が見えたときにも慌てて動かず、転ばないよう安全に家の中で生活したい。
長期目標
幻視がある場合にも転倒等の事故を防ぎ、安全に自宅内を移動して生活できる。
短期目標
幻視がみられた際に一人で急に動かず、家族や支援者の声かけを受けながら安全に行動できる。
サービス内容
幻視時に本人が立ち上がったり追いかけたりする場合には、本人の動きを無理に制止せずそばで安全を確保する。床や移動経路に障害物がないよう環境を整える。
課題③ 見間違いや不安が起こりにくい環境で暮らしたい
生活全般の解決すべき課題(ニーズ)
暗い場所や物の影で怖い思いをせず、落ち着ける家の中で過ごしたい。
長期目標
本人が見間違いや不安を感じにくい住環境が整い、安心して生活できる。
短期目標
本人が不安を感じやすい時間帯や場所を把握し、照明や室内環境を調整することができる。
サービス内容
夕方から夜間の照明を確認し、人影に見えやすい衣類や物の配置、カーテン、鏡等について本人の反応を見ながら調整する。本人が安心できる場所や過ごし方を整える。
課題④ 家族も幻視への対応に迷わず穏やかに関わりたい
生活全般の解決すべき課題(ニーズ)
家族も毎回どう答えればよいか悩まず、本人を安心させながら穏やかに生活したい。
長期目標
家族が本人の幻視への対応方法を理解し、過度な不安や負担を抱えず在宅生活を支えることができる。
短期目標
本人が安心できた声かけや環境調整の方法を家族・関係職種で共有することができる。
サービス内容
幻視の内容、時間帯、本人の反応、落ち着いた対応等を必要な範囲で記録し、家族・介護サービス等で共有する。家族が対応に疲れている場合には負担についても確認する。
第2表の完成イメージ
上の文例をつなげると、実際の第2表では次のような形になります。
※表は全体のつながりを確認するためのものです。文章をコピーするときは、上の各文例にあるコピーボタンを利用してください。
| 生活全般の解決すべき課題(ニーズ) | 長期目標 | 短期目標 | サービス内容 |
|---|---|---|---|
| 人や物が見えて怖くなったときも、一人で不安を抱えず安心して過ごしたい。 | 幻視がみられても、不安を受け止めてもらい穏やかに生活できる。 | 不安時に家族等へ伝え、安心できる声かけを受けることができる。 | 幻視を強く否定せず、本人の不安や恐怖を受け止める。 |
| 幻視があっても慌てて動かず、安全に家の中で生活したい。 | 転倒等を防ぎ、安全に自宅内を移動して生活できる。 | 幻視時に支援者の声かけを受けながら安全に行動できる。 | 本人のそばで安全を確保し、移動経路の環境を整える。 |
| 暗い場所や物の影で怖い思いをせず、落ち着いて暮らしたい。 | 見間違いや不安を感じにくい環境で安心して生活できる。 | 不安が起こりやすい場所や時間帯を把握し環境調整できる。 | 照明・物の配置等を本人の反応に合わせて調整する。 |
| 家族も対応に迷わず、本人と穏やかに生活したい。 | 家族が対応方法を理解し、過度な負担なく本人を支えられる。 | 安心できた対応方法を家族・関係者で共有できる。 | 幻視の状況と有効だった関わりを記録・共有する。 |
認知症・幻視のケアプランで意識したいポイント
本人には「見えている」という前提で考える
周囲には見えていなくても、本人にとっては実際に人や物が存在しているように感じられる場合があります。「そんなものはいない」と正しさだけを伝えるより、本人が何を感じているのかに目を向けます。
幻視そのものより本人の感情を見る
同じ幻視でも、本人が怖がっている場合と、特に気にしていない場合があります。すべての幻視に同じ対応をするのではなく、不安・恐怖・怒りなど本人の反応を確認します。
「そうですね、本当に人がいますね」と事実まで合わせない
本人の気持ちを受け止めることと、見えている内容を事実として肯定することは別です。「人がいて怖いんですね」など感情に寄り添い、事実関係について無理に合わせる必要はありません。
環境による見間違いを確認する
暗い部屋、衣類の影、鏡、カーテンの模様などが、人影や動物のように見える場合があります。どこで幻視が起きやすいかを確認し、本人が安心しやすい環境へ調整します。
出現する時間帯や体調も見る
夕方や夜間、疲れているとき、睡眠不足のときなどに訴えが増える場合があります。幻視の内容だけでなく、出現した時間帯やその日の体調も記録しておくと支援方法を考えやすくなります。
幻視に伴う行動による事故を防ぐ
見えているものを追い払おうとする、避けようとする、探しに行くなどの行動が転倒につながることがあります。幻視の有無だけでなく、その後どのような行動につながるかを確認します。
急な変化は体調や薬も含めて確認する
これまでなかった幻視が急に出現した場合や急激に強くなった場合には、認知症の進行だけと考えず、身体状態、睡眠、服薬、生活環境等の変化にも目を向けます。
文例を使うときのポイント
- 本人には何が見えているのか確認する
- 怖がっているのか、気にしていないのかを把握する
- 本人の訴えを強く否定しない
- 見えている内容そのものを事実として肯定しない
- 幻視が起こりやすい時間・場所・環境を確認する
- 照明や物の配置による見間違いを検討する
- 幻視後の立ち上がりや移動による転倒に注意する
- 急な変化があれば体調や服薬等も確認する
まとめ
認知症のある利用者が周囲には見えていない人や物を見ている場合、「見えていない」と訂正することだけでは本人の安心につながらないことがあります。本人にとっては実際に見えているように感じられていることを理解し、まず不安や恐怖の気持ちに目を向けることが重要です。
幻視がみられる時間帯や環境、本人の反応を確認し、照明や室内環境を調整するとともに、転倒等の安全にも配慮します。本人が安心できた声かけや対応を家族・関係職種で共有し、急な症状変化がある場合には医療職とも連携することで、安心して生活を続けられるケアプランにつながります。
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