認知症のある利用者では、歯磨きや義歯の手入れを勧めても「もう磨いた」「触らないで」と拒否したり、介助しようとすると口を開けてくれなかったりすることがあります。口腔ケアを拒否する背景には、必要性を理解しにくいことだけでなく、口の中を触られる不快感、痛み、羞恥心、過去の生活習慣などが関係している場合もあります。
ここでは、認知症により歯磨きや義歯の手入れを拒否することが増え、家族が口腔清潔を心配している利用者を例に、本人の尊厳や生活習慣を大切にしながら口腔ケアにつなげる第1表・第2表のケアプラン文例を紹介します。
この記事が参考になるケース
- 歯磨きを勧めても「もう磨いた」と話す
- 歯ブラシを渡しても使わないことがある
- 口腔ケアを介助しようとすると拒否する
- 義歯を外したがらない、または手入れを嫌がる
- 口臭や口腔内の汚れが気になっている
- 本人自身で行える部分も残っている
- 家族が毎日の口腔ケアに負担を感じている
担当ケースに近い部分を選び、本人の口腔状態、認知機能、義歯の有無、生活習慣、本人が嫌がる場面などに合わせて調整してください。
※口腔ケアを急に嫌がるようになった場合や、痛み、腫れ、出血、食べにくさ等がみられる場合には、認知症による拒否だけと考えず、必要に応じて歯科医師・歯科衛生士等への相談も検討してください。
利用者像の例
- 86歳・男性・要介護2
- 次男夫婦と同居
- アルツハイマー型認知症
- 食事、排泄、屋内移動は概ね自立
- 部分義歯を使用している
- 以前は朝食後と就寝前に自分で歯磨きをしていた
- 最近は歯磨きを勧めても「さっきやった」と話すことがある
- 家族が歯を磨こうとすると顔を背けることがある
- 歯ブラシを本人に渡し、鏡の前で声をかけると自分で磨けることもある
- 義歯の清掃は忘れることが増えている
- 家族は口臭や残存歯の状態を心配している
- 通所介護週3回利用
本人・家族の意向の文例
本人の意向
おすすめ文例|自分でできることを続けたい場合
歯磨きくらいは自分でできるので、自分でできることまで人にやってもらいたくない。必要なところだけ手伝ってほしい。
別の表現①|口を触られることが苦手な場合
急に口の中を触られるのは嫌なので、何をするのか分かるようにしてから手伝ってほしい。
別の表現②|食事を楽しみたい場合
これからも自分の歯で好きな物を食べて、食事を楽しみながら暮らしたい。
家族の意向
おすすめ文例|本人のできることを残したい場合
無理に歯磨きをすると本人が嫌がるので、自分でできる部分は続けてもらいながら、足りないところだけ支援してほしい。
別の表現|口腔状態への不安が強い場合
最近は口臭や義歯の汚れも気になっている。痛みや歯の状態も含めて確認し、食事を長く楽しめるようにしてほしい。
第1表の文例
利用者及び家族の生活に対する意向を踏まえた課題分析の結果
おすすめ文例
本人は食事を楽しみにしており、できる限り自分の歯で食べ続けたいという思いがある。以前は歯磨きや義歯の管理を自身で行っていたが、認知症による記憶力の低下から、歯磨きを行っていなくても「もう磨いた」と認識することが増えている。一方、歯ブラシを本人に渡し、鏡の前で落ち着いて声をかけることで、自ら歯磨きを行える場面もみられている。家族が直接口腔内を触ろうとすると顔を背けることがあり、自分でできることまで介助されることへの抵抗や、口腔内を触られる不快感が考えられる。本人が現在行える口腔ケア能力を活かし、本人自身による歯磨きを基本としながら、義歯清掃や磨き残し等の困難な部分のみ支援する必要がある。また、口腔内の痛みや不具合等にも留意し、必要時には歯科専門職と連携して口腔状態を維持する必要がある。
別の表現|食事・健康を重視する場合
本人は現在も食事を自力摂取し、食べることを生活の楽しみとしている。一方、認知症により歯磨きや義歯清掃を忘れることが増え、家族が介助しようとすると拒否がみられている。口腔ケアを一方的に行うのではなく、本人が自分でできる工程を活かし、馴染みのある時間帯や方法で声をかけることが必要である。口腔清潔を保ち、歯や義歯の状態を確認することで、本人が安全に食事を楽しみながら在宅生活を続けられるよう支援する必要がある。
総合的な援助の方針
おすすめ文例
本人が自分で歯磨きを行いたいという思いを尊重し、歯ブラシの準備や分かりやすい声かけにより、本人自身で行える口腔ケアを継続する。介助が必要な場合には突然口腔内へ触れず、本人に説明して反応を確認しながら必要な部分のみ支援する。歯磨きや義歯清掃が行いやすい時間帯・方法を家族・通所介護等で共有する。口腔内の痛み、出血、義歯の不具合、食事状況等に変化がみられた場合には、必要に応じて歯科医師・歯科衛生士等へ相談し、本人が食事を楽しみながら生活できるよう支援する。
別の表現|短めにまとめたい場合
本人が自分で行える歯磨きを継続し、困難な部分のみ必要な支援を行う。本人のペースと気持ちを尊重した口腔ケアを行い、口腔状態や食事状況の変化について家族・介護サービス・歯科専門職等で必要に応じて共有する。
第2表の文例
歯磨きや口腔ケアを拒否する場合も、「歯を磨かせること」を生活目標にするのではなく、本人が自分でできることを続けながら口腔状態を保ち、食事を楽しめることを目標として考えます。
課題① 自分でできる歯磨きをこれからも続けたい
生活全般の解決すべき課題(ニーズ)
自分でできる歯磨きはこれからも自分で行い、自分のことを自分でできる生活を続けたい。
ニーズの別表現|自尊心を重視する場合
何でも人にしてもらうのではなく、できることは自分で続けながら生活したい。
長期目標
本人が現在行える口腔ケアを継続し、自分でできるという自信を保ちながら生活できる。
短期目標
歯ブラシの準備や声かけを受けながら、自分で歯磨きを行うことができる。
サービス内容
本人が使用し慣れた歯ブラシ等を準備し、鏡の前など本人が行いやすい環境を整える。本人が自分で行える部分は見守り、すぐに介助へ移らないよう配慮する。
課題② 嫌な思いをせず必要な口腔ケアを受けたい
生活全般の解決すべき課題(ニーズ)
急に口を触られたり無理に歯を磨かれたりせず、安心できる方法で手伝ってほしい。
長期目標
本人が安心できる関わりの中で必要な口腔ケアを受け、口腔内の清潔を保つことができる。
短期目標
介助前に分かりやすい説明を受け、本人が受け入れられる範囲で口腔ケアを受けることができる。
サービス内容
口腔ケアを行う前に本人へ分かりやすく説明し、表情や反応を確認する。拒否が強い場合には無理に続けず、時間を置く、本人が自分で行うよう促すなど受け入れやすい方法を検討する。
課題③ 口の状態を整え、好きな食事を楽しみたい
生活全般の解決すべき課題(ニーズ)
歯や義歯を良い状態に保ち、これからも好きな物を自分の口で食べたい。
長期目標
口腔状態を良好に保ち、本人が苦痛なく安全に食事を楽しむことができる。
短期目標
口腔内や義歯の状態を定期的に確認し、痛みや食べにくさ等の変化を早期に把握できる。
サービス内容
歯・歯肉・舌・義歯等の状態や、食事中の噛みにくさ、痛み等を確認する。異常が疑われる場合には家族と情報共有し、必要に応じて歯科医師・歯科衛生士等への相談につなげる。
課題④ 家族も口腔ケアを無理に行わず本人を支えたい
生活全般の解決すべき課題(ニーズ)
本人と毎回言い争いながら歯磨きをするのではなく、家族も無理をしすぎず口の健康を支えたい。
長期目標
家族が口腔ケアを一人で抱え込まず、本人との関係を保ちながら必要な支援を継続できる。
短期目標
本人が口腔ケアを受け入れやすい時間帯や方法を、家族・介護サービス等で共有することができる。
サービス内容
本人が歯磨きを行いやすかった声かけ、時間帯、環境等を関係者で共有する。家族が拒否時に無理に介助を続けない対応方法を確認し、口腔状態への不安がある場合には専門職への相談につなげる。
第2表の完成イメージ
上の文例をつなげると、実際の第2表では次のような形になります。
※表は全体のつながりを確認するためのものです。文章をコピーするときは、上の各文例にあるコピーボタンを利用してください。
| 生活全般の解決すべき課題(ニーズ) | 長期目標 | 短期目標 | サービス内容 |
|---|---|---|---|
| 自分でできる歯磨きはこれからも自分で行い、自分のことを自分でできる生活を続けたい。 | 現在行える口腔ケアを継続し、自信を保ちながら生活できる。 | 準備や声かけを受けながら、自分で歯磨きを行うことができる。 | 本人が行いやすい環境を整え、自分でできる部分は見守る。 |
| 急に口を触られず、安心できる方法で必要な部分を手伝ってほしい。 | 安心できる関わりの中で必要な口腔ケアを受け、清潔を保てる。 | 説明を受け、受け入れられる範囲で口腔ケアを受けることができる。 | 介助前に説明し、拒否時は無理に続けず方法や時間を調整する。 |
| 歯や義歯を良い状態に保ち、好きな物を自分の口で食べたい。 | 口腔状態を保ち、苦痛なく安全に食事を楽しむことができる。 | 口腔状態を確認し、痛みや食べにくさの変化を把握できる。 | 口腔内・義歯・食事状況を確認し、必要時に歯科専門職等へ相談する。 |
| 本人と争いながら歯磨きをせず、家族も無理なく口の健康を支えたい。 | 家族が抱え込まず、本人との関係を保ちながら口腔ケアを支援できる。 | 本人が受け入れやすい方法を家族・関係者で共有できる。 | 有効な声かけや時間帯を共有し、家族の負担にも配慮する。 |
認知症・口腔ケア・歯磨き拒否のケアプランで意識したいポイント
「磨かない人」ではなく工程を分けて見る
歯ブラシを準備する、歯磨き粉をつける、ブラッシングする、うがいをする、義歯を外して洗うなど、口腔ケアには複数の工程があります。本人がどこまで自分で行え、どの工程に支援が必要なのかを整理します。
本人ができることまで介助しない
時間がかかるからと支援者が最初から磨いてしまうと、本人が「自分でできるのに」と感じ、拒否につながることがあります。歯ブラシを渡すだけで本人自身が動作を開始できる場合もあります。
口を触られること自体への不安を考える
本人が状況を理解できていない状態で他者から口の中を触られれば、不快感や恐怖につながることがあります。本人の正面から声をかけ、何をするのかを伝えたうえで反応を確認します。
拒否の背景に痛みがないか確認する
歯磨きを嫌がる背景に、歯の痛み、歯肉の炎症、義歯の不具合などが隠れている場合があります。以前はできていた口腔ケアを急に嫌がるようになった場合には、口腔状態の変化にも目を向けます。
生活習慣に合わせたタイミングを考える
これまで就寝前に必ず磨いていた人、洗面所で鏡を見ながら磨いていた人など、長年の習慣が残っていることがあります。本人に馴染みのある場所や時間帯を活用すると、動作につながりやすい場合があります。
口腔ケアと食べる楽しみをつなげる
口腔ケアは清潔保持だけでなく、本人が食事を楽しみ続けるための支援でもあります。「歯磨きをする」という作業ではなく、「好きな物を自分の口で食べる生活を守る」という視点でケアプランを組み立てます。
家族だけで毎日のケアを抱え込まない
毎日の歯磨きをめぐって本人と家族が言い争う状態が続けば、双方に負担が生じます。本人が受け入れやすかった方法を介護サービス等と共有し、必要に応じて歯科専門職から助言を得ることも検討します。
文例を使うときのポイント
- 口腔ケアのどの工程まで本人が行えるか確認する
- 本人が以前どのような歯磨き習慣を持っていたか把握する
- 口を触られる不快感や不安に配慮する
- 拒否時に無理に口を開けさせない
- 痛みや義歯の不具合がないか確認する
- 本人が受け入れやすい時間帯や環境を探す
- 食事を楽しむことと口腔状態を関連付けて考える
- 家族だけで毎日の口腔ケアを抱え込まない
まとめ
認知症のある利用者が歯磨きや口腔ケアを拒否する場合、「どうすれば磨かせられるか」だけで考えるのではなく、本人がどこまで自分で行えるのか、何に不安や不快感を感じているのかを確認することが重要です。
本人自身で行える歯磨きを活かしながら、義歯清掃や磨き残しなど難しい部分のみ支援し、拒否時には無理に介助を続けないことが大切です。口腔状態や食事状況の変化にも目を向け、必要に応じて歯科専門職と連携することで、本人が好きな食事を楽しみ、自分らしい生活を続けられるケアプランにつながります。
関連するケアプラン文例
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